ドイツでは誕生日のお祝いというものを重視する。
幼稚園では誕生日会を必ず行う。
知り合いの小学校では、さすがに個別にはしないけれど
毎月、生まれ月の子のためのお誕生日会があるらしい。
日本人が想像する、幼稚園での誕生日会とは
幼稚園側でケーキやお菓子を用意してくれるような
親は全く関係ないパーティではないだろうか。
いいですか。
ケーキは親が用意します。
うちの幼稚園では、それ以外に、クラスの子全員に
小さく包んだお菓子(飴やチョコ)も渡します。
しかも親も参加(希望した場合のみ)
まじかっ、って、なるよね。
ゴウのクラスは22人。
20人以上分のケーキって焼いたことないんですけど。
前日までに小さなプレゼントをちまちま用意して、
当日、大型のケーキ焼いて、とおいらは入園してからずーっと考えてた。
まあ、ケーキの大きさは未知だが、きっと焼けるだろう。
気が滅入るほど面倒だけど、ケーキさえ焼けば、終わりだ。
そう思ってた。
きっかけはなんだったろう。
ゴウが幼稚園に着くなり、
持参の弁当(朝食としてドイツでは普通)を開き
それをおいらが見かけたことだったろうか。
他の子がパンを頬張ってるのに、
ゴウは黒い海苔を巻いたおにぎりを食べてる。
周りの子は、それをどう思ってるんだろうか。
時々ゴウは、友達からハムをもらったとか、ぶどうをもらったとか、
嬉しそうに話してくれる。
でも、その友達は、
ゴウの食べるおにぎりを、食べられるんだろうか。
日本人には到底考えが及ばないことだが、
世界的に、海苔を「食べることができる」民族はおそらく多くない。
黒い物体は、およそ食用とはみなされず、
拒絶されてしまうのだ。
考えてみたら、ゴウの卵焼きにはジャコだって入れてる。
あんな小型の魚なんて、
他の子はきっと食べられないだろう。
ちょっと待て、これはものすごいチャンスじゃないか?
正々堂々と、よそ様のお子さんに、
こっちが望むものを食べさせることができるなんて。
おいらは、ケーキを作るのをやめた。
おにぎりを食べてもらおう。
普段ゴウが食べているのは、
得体のしれない黒絵具のようなものではなく
次に見たら欲しくって、ゴウにねだってしまうくらい美味しいものだと
絶対に思わせてみせる。
名付けて、誕生日大作戦。
おいらはまず、先生に相談した。
きっとみんな、ゴウがなにを食べているかわからないだろうから、
日本食を誕生日に持ってきたい。
先生はいいアイデアだと同意してくれた。
おいらが、海苔を食べてもらえるだろうかと不安を口にすると
子供達にとって、違う国の食べ物を食べることは
とてもいい経験であり、
私がそれをサポートしなければならない、と言った。
つまり無理矢理でも食わせて見せる、ということだと受け取った。
しかし相手は幼稚園児である。
先生が何と言おうと、食べてくれない可能性は高い。
おにぎりとは別に、絶対にドイツ人が喜ぶものも作ろう。
考えた末、小さなアメリカンドッグを作った。
案の定、これは大人気で、一人二個作ったのに、
欠席の子の分を巡って争奪戦になった。
そして本命のおにぎり。
失敗は許されない。
一口食べてマズければ、
今後ゴウのお弁当にどんなヤジが飛ぶかわからない。
そこでおいらは、偉大なフリカケの力を借りることにした。
子供が喜ぶようなタイプのものを、日本から送ってもらう。
日頃、ゴウにインスタントのものを与えないように
フリカケも避けてきていたが
背に腹は変えられない。
ちびっこに添加物いっぱいのものを食べさせるのも気が引けるが
一回くらいいいだろう。
おいらは当日朝5時に起き、
二回もご飯を炊いた。
一人二個の小さなおにぎりと、海苔巻き。
海苔巻きは、アボガドと火を通したスモークサーモンで
なんちゃって寿司にした。
巻き寿司は、食べたい子だけにあげてもらうつもりだった。
同日夕方から、幼稚園以外の友達を招いたパーティを予定していたので
そのケーキ焼いたり夕食作ったりで、
幼稚園の誕生日会には参加しなかった。
そのことで、ゴウには後ほど怒られた。
参加してほしかったのかー、と驚いたけど
先生がいっぱいゴウの写真を撮ってくれてたので
準備優先してよかったというのが本音。
アメリカンドッグは完売だったが
おにぎりと海苔巻きはそれぞれ8個ほど残ってた。
予想していたより、食べてもらえたみたいだ。
置いていても邪魔だろうと、受け取ろうとしたら
先生が「年長さんたちが、もし余ってるなら食べたいと言ってる」
と言ってくれた。
アメリカンドッグは制止できなかったが、
おにぎりだけは、欠席の子の分は残し、
おいらに食べていいか聞くと、子供達に言ったのだそうだ。
おいらが快諾すると、
「よかった、さっきからずっとおにぎりは?って聞かれてるの」
と笑った。
最初、想像した通り、
アジア圏以外の子供は、おにぎりや寿司に手を出さなかったそうだ。
それを先生がなだめすかし、
とにかく匂ったりちょっとだけかじらせたりすると、
急に顔を輝かせて全員が食べたらしい。
おいらはものすごく幸せな気持ちになった。
下手したら誰も食べてくれなくて
ゴウを惨めにさせたかもしれないのに。
ありがとう、と心から言った。
当たり障りのないケーキにしようと、何度考え直したか。
挑戦して良かった、と本当に思った。
ゴウが成長するたびに、
おいらはいいチャレンジや経験をさせてもらってる。
生まれてきてくれてありがとう、ゴウ。
4歳ってめっちゃデカくてびっくりする。膝ついてだっこはもうできない。
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