ドイツ人は議論好きといわれてる。
おいらの個人的な見解では
議論の場で発言することが正しい、と
考えているような気がする。
好きだから、というのではなく
言わないのだったら議論は必要ないよね、という感じ。
極論をいうと、内容より、発言の有無が重視される。
そんな気がする。
で、保護者会なんていうものは
格好の議論の場であり
白熱する、という話を聞く。
幼稚園では、保護者会がある。
しかも夜。
あー、めっちゃ苦手。
おいらはドイツ語を話すけれど
議論とか無理。
保護者会にはまだ仲のいい友達もいないし
じーっと黙って聞いてるだけだろうな、と思ってた。
が。
一言でいうと、めっちゃ面白かった。
鍵を握っていたのは、ひとりのインド人ママ。
保護者会が始まるなり
「あ、私ドイツ語話せないんで。
誰が通訳できますか?」
と、英語で言い切った。
ええええええええ?
だよね?
これって普通の感覚?
いや、おいらの中ではありえない。
全員どん引きかと思いきや
ひとりのドイツ人パパが引き受けた。
「英語の方がいい人は、僕の近くに座って」
と、おいらにもめくばせしてくる。
いやー、おいらはドイツ語でいいんだけど。
と思いながら、
彼が椅子をおいらに引いてくれたので
まあ、そりゃ英語の方がいいしね、と座った。
向かいにはインド人ママ。
彼女はおもむろに
「今の私の問題は、息子のトイレトレーニング。
いつ始めたらいいか
幼稚園からのアドバイスが欲しいわ」
とのたまった。
もう、もうもうもう、
びっくりしちゃった。
保護者会ってそんな場じゃないし
そもそも自らやる気ゼロじゃん。
おいらはインド人の知り合いがいないので
一気にインド人ってこうなんだ、と思ってしまう。
でも多分これが標準ではない、よね?
先生はにっこり笑って
「いつ始めてもいいですよ、
私たちはサポートします」
と華麗にかわした。さすがだ。
インド人ママは
「そんなことが聞きたいんじゃないのに」
と言いたげに肩をすくめた。
ちなみにこのインド人ママの息子は
3歳半で、ゴウと同じ新入生だ。
先生の司会で、
ひとまず全員が自己紹介することになった。
みんな、多少のユーモアを加えながら
ごく普通の自己紹介。
インド人ママの自己紹介は
やはり飛び抜けていた。
「うちの息子は厳密なベジタリアンです。
みなさんが食べ物を幼稚園に持ち寄る時は
そのことを心に留めておいてください」
えーーーーーー
インド人ってほんとにベジタリアンなんだー、じゃなくて
いやいやいや、
おかしくね?
あんたんところがベジタリアンかどうか
なんで気にして食べ物もってこなきゃいけないの?
持ち寄る、って
あれでしょ、パーティとか、誕生日会でしょ。
それに肉も乳製品なしって
何持ってくりゃいいのよ。
そもそも、
アレルギーならともかく
ベジタリアンって主義なわけで、
3歳の息子にそれを押し付けるのっておかしくない?
息子がほかの子と交流する機会を奪ってまで
貫かなくちゃいけないこと?
もし誕生日にミートパイが出たら
彼は食べることはできないの?
だから持ってくるなってこと?
愕然を通り越して、ちょっと怒りになってきたおいら。
でもドイツ人の父兄は寛大だったよ。
「厳密ということはチーズもダメですか?」
と誰かが聞いた。
「乳製品はOKです」
とインド人ママ。
厳密じゃねーじゃん!
ここまでくると、
面白くなってきた。
どこまでいっちゃうんだろう、このママは。
期待を裏切らないわあ。
幼稚園側から、行事の説明などが行われ
ドイツ人パパは几帳面にすべて英語に通訳した。
おいらのことをちらちら見て
気にかけてくれてるんだが
この程度ならドイツ語で分かるんだよね。
一度、おいらがドイツ語で質問をした時、
ドイツ語の先生の答えを、
パパは英語に訳してくれた。
非常に親切で好感もてるんだが。
正直、英語とドイツ語を同時に聞くのは苦手。
ドイツ語喋ってるつもりで英語を話してしまうから。
だんだん、周囲のドイツ人たちが英語を話し始めた。
ドイツ語より英語の方がいい、という人が
5人くらいいたので
それをおもんぱかってくれたのだろう。
(英語を話すのが好き、というドイツ人も結構いる)
ドイツ人パパはもう出番なしかと思ったら
「はーい、今のドイツ語に訳して!」
と、先生が笑いながら言った。
彼女はとても陽気だったし
みんな笑ってたけど、
おいらは、これはよくないな、と思った。
不用意に英語席に座ってはいけなかった。
この場では、ドイツ語にすべきだった。全員が。
その後、クラス委員を決めるということになった。
保護者の中で発言に力があり、
もうすでにいろいろと知り合いがいるらしいドイツ人ママが
周りに何か言われ、手を挙げた。
すると、
何を思ったのか、
インド人ママが
「ドイツ語の勉強のために、私も立候補するわ!」
だめだよ!
ドイツ語できない人がクラス委員になったら
通訳係が必要になるじゃん!
でも、みんな、もう面白くなっちゃって
「じゃあ俺も勉強に」
と、ドイツ語圏外のパパママも手を挙げ
計8人もクラス委員に立候補してしまった。
周囲から、「あいざぁも立候補するんでしょ」っぽい
プレッシャーがあったけど
おいらは絶対手を挙げなかったよ!
だってクラス委員はドイツ語の勉強の場じゃないしね!
ドイツ文化を完全に分かってないおいらが
ほかの保護者の相談に乗ったり
幼稚園とわたりあったり、できるわけないじゃん。
先生がにこやかに
「多すぎます」
といったので
投票を行うことになった。
蓋を開けてみると
最初に立候補したドイツ人ママが票を集めた。
インド人ママは2位に入る健闘ぶりで
みんなが面白がっているのがよくわかった。
客観的に見て、
インド人ママが長になれば
マイノリティも尊重されるクラスになるだろう、という
正義論もあったのかもしれない。
でも、マイノリティ側からすると
彼女はマイノリティの標準的な考え方ではないからね。
クラス委員は二人なので、
順当にインド人ママが副委員になるのかと思いきや
それはそれで、また別途投票。
そして意外にも、違うママが票を集めた。
みんな、インド人ママを委員にしたいのかしたくないのか
どうなんだ。
おいらはどっちも、違う人に入れたけど。
今回おいらは
「よかった、おいらは善良な保護者だ。
めっちゃ普通の人間だ」
ということが再確認できた。
困った保護者というのは、
彼女みたいなひとのことなんだろう。
でも同時に
彼女がいてくれてよかったとも思う。
痛いキャラではあるが
彼女のぶっとび言動に
みんながなんだか面白くなって
雰囲気がとても暖かかった。
先生も
「クラス委員を決める時は、
誰もがうつむいて、
候補がなかなか決まらないのが常なのに
多すぎて投票するなんてね」
と驚いていた。
ストレスなく、おいらもいろいろと発言できたし
面白いことも言えたし (←これ重要)
みんな声を上げて笑ってて
とても楽しかった。
おいらは英語でもドイツ語でも
大勢で集まってこういう場を持ったことがないので
不安だったけれど
ちゃんと輪に入れて
尊重され
笑っていたことにとても満足した。
保護者会、おいらは大好きになったよ。
「通訳いたし次回はマンジロウいってよ」と言ってみた。