☆昨日の記事の続き☆
デートを重ねると、それがただの食事デートであったとしても、
男というのは、すぐに次の展開を期待する。
数回のデートで「付き合う」云々と言われるのは、おいらは好きじゃない。
もちろん、おいらが惚れてる男なら万々歳だけどさ。
マンジロウは、そういうがっついたとこがなかった。
レストランからの帰り道、二人で歩いていても、手をつなごうなんてしないし、
おいらの家まで送っていこうともしない。(←これは良し悪し)
本当にただ一緒にご飯を食べるだけ。
それはすごく居心地がよかった。
ある日マンジロウから連絡があった。
「この間はなしてた、《一見さんお断りの料亭》に予約が取れそうなんだけど…
うちの父親も一緒に行くって聞かないんだけど、イヤだよね?」
という内容だった。
付き合ってもない男の親に逢うというのは変な気もしたけど、
むしろ付き合ってないから気楽ということもある。
「全然かまわないよ」とおいらが言うと、マンジロウはほっとしたみたいだった。
裏話をすると、
この2ヶ月ほど前、この二人はマンジロウの結婚を巡って大喧嘩になり
マンジロウ父は血圧を上げて倒れた。
そのことがあって、
マンジロウはちゃんとおいらのことを「友達」だと伝えたらしいのだが
無下に断るのも気がとがめたらしい。
当日、格式ある老舗料亭にゆくと、
すでに二人は着いていた。
マンジロウ父はおいらを見るなり、テンションが上がり、
ずーーっと笑いっぱなしで酒飲みっぱなしだった。
料亭のお味は、敷居の高さほども凄いかは分からなかったが、
個室でてんぷらを揚げてくれたり
仲居さんの心遣いが行き渡っていたり、
それなりによかったと思う。
マンジロウ父は押し付けがましいタイプで、おしゃべりだが
知識は豊富で、話が面白かった。
おいらはこの年代の男性とのコミュニケーションは得意なので、
適当に「感じの良い女性」を装った。
なんせ高い料理をご馳走になるんだから、おいらだってそれくらいのことはする。
父親の前のマンジロウは、いつもより控え目で、あまり話さない。
それでも「オヤジ、飲みすぎだよ」と気遣ったり、
父親がテーブルに落としたタレをさっとナプキンで拭いたり、
なんとなく、普段より感じのいい男に見えた。
マンジロウがトイレに立った時。
いきなりマンジロウ父は真面目な顔をして
「こんなに早いタイミングで、しかも私が聞くのは変だけども、
可能性として、
マンジロウと一緒にドイツにいく、なんてことはありえるかな?」
と言われた。
正直、すごく驚いた。
彼がおいらを気に入ってるのは分かっていたが、
まさかこの場で結婚を打診してくるとは思わなかったのだ。
おいらが返答に困っていると、
おしゃべりマンジロウ父は延々と語りだした。
このままマンジロウがヨーロッパにいけば、
婚期が遅れるだろう、
そうなると相手の女性の年齢も上がって、子供が難しくなるだろう。
しかも相手は日本人ではないだろう。
それだけは困る、結婚相手は日本人でないと。
なぜならマンジロウが海外に永住してしまうから。
マンジロウの恋愛に口を出すつもりはない、
しかし転勤までに時間がない。
結婚式もきちんとしたいから、時間はますます残されていない。
今日あなたに逢って、
あなたのような素敵な女性が嫁にきてくれたらどんなに素晴らしいか、
老いの夢を見てしまった。
マンジロウがまごまごして、
このまま進展せずに転勤なんてことになったら、
私は悔しくて夜も眠れない。
などなど。
恐ろしいほどスピーディに展開していく。
マンジロウ父の中のマンジロウ像が、恋愛にヘタレであることは笑えたが、
そのほかはあんまり笑えない。
「でも、うちとマンジロウ家では釣り合いませんよ」
と、我ながら見事なほど適当にかわすと、
マンジロウ父は更にヒートアップした。
「今の時代に、家柄なんて!
日本人であれば何も問題ないよ!」
と、おいらを気に入ったというより
日本人女性なら誰でもいいという本音をポロリ。
しかしこのマンジロウ父の発言は結構きついものがある。
もしもおいらが在日朝鮮人だったら、きっと相当落ち込むだろうな。
おいらは遡れる限り、日本人だけれど、
それだってどこで血が混じってるかわからない。
そんなふうに考えてしまって、ちょっと気分が沈んだ。
今でもそうだけど、
マンジロウ父は明るくて面白い。
だけど、なにか肝心な部分でおいらをブルーにさせる。
本人にそのつもりはないんだけども。
おいらはなんか面倒くさくなって、
もうマンジロウに逢うのはやめようかな、って思い始めた。
あれ、意外に長いな、この話。