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お育ちのいい夫にてこずる妻日記。エコだったり毒舌だったり。

2024-05

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おいらの姉は医療従事者だ。
「燃え尽き症候群」になりがちな職種でありながら、
常にポジティブで、患者に優しく、時に厳しく、
身内がいうのもなんだが、素晴らしい人だと思う。
(だから料理なんかできなくていいのだ)

ストレスの多い職業だから、姉は誰にもいえない愚痴を
おいらにぶつけることが多かった。
今は、それがメールでやってくる。

おいらに医療の知識はないし
守秘義務のある姉も全部は書かないから
中途半端な理解しか出来ていないが
今回の話は、おいらにもきつかった。


姉の担当する患者さんで、癌の人がいる。
認可されている抗癌剤が効かない、めずらしい種類。
実験段階の薬を投与することになった。

まだぎりぎり30代。子供も幼い。
彼は癌と戦う道を選んだ。

抗癌剤はおそろしくきつい薬だ。
一日の投与量から、一生の投与量まで厳しく決まっている。
でも、未認可であれば、その制限がない。
彼が根をあげるまで、投与され続けることになる。


1年、彼は頑張った。
入院しながら、会社にも行った。
吐こうが何をしようが、働き続けた。

治療が始まってすぐ、食べられなくなった。
一年が経過して、水さえも飲めなくなった。
はじめのうち、癌は少しも小さくならないが、大きくもならなかった。
これは抗癌剤が効いている証拠。
それが徐々に転移をはじめ、様々な臓器とリンパ節に転移した。
癌の痛みと、抗癌剤の苦しみ。
これは、現場を知らない人間には想像もできない壮絶さだ。


激しい痛みはずっと続く。
姉は言う。
「死ぬ時の痛みは、私たちが思うどんな痛みより激しい」
彼の肉体は死に向かっていて
眠ることも、何かを穏やかに感じることも、食べることも
きっと誰かを愛する気持ちさえ滲ませるほど
激しい痛みと常にあった。


とうとう、彼は言った。
「もう、死なせてください」


あと半年生きられる。
姉はそう確信していた。
彼の戦いも、痛みも、すぐそばで見ていたのだ。
けしてそんなことはしない人なのに
泣いて止めてしまったそうだ。


「このままじゃ、娘の記憶の中の父親は
いつも苦しんでいるだけになる。
眠るように静かに死にたい。
苦しんでいない父親の姿を見せたい」


姉は、この言葉には反論できなかった。


彼は家族や、友達、自分を助けてくれた全ての人に
お別れの挨拶をし、
娘と一晩一緒に眠って、病院にきた。


日本では、安楽死は認められていない。
彼が求めたのは、鎮静剤による安らかな眠り。
最後の瞬間まで、こうして眠り続ける。


それでも彼は若くて、癌以外の部分は生きようとする。
鎮静剤では押さえきれず、
痛みや呼吸苦で目が覚めてしまう。

一旦意識が落ちれば、そこに手を加えることは許されていない。
彼が目覚めるまで、手を出せないのだ。
彼の妻は、もう彼が苦しむのを見たくないと
死なせてやってくれと泣いた。

一年も彼の悲鳴を聞き続けたのだ。
そして彼が「もういやだ」と言ったのだ。
妻がそう言う気持ち、おいらには理解できる。

でも安楽死は違法だ。
「目が覚めたら、必ず」と姉が言っても
「目を覚まさせないで」と泣かれる。

今まで姉が担当してきた若い患者は
みんな、生きることが目標だった。
死にたくない、と
最後の瞬間まで戦っていた。
だから、死を望まれることに動揺している。


メールを読みながら、おいらは泣いてしまった。
逢ったこともない人なのに、
それでもこの苦しみを、ほんの少し想像しただけで
悲しくて辛くて、たまらなくなった。

姉はどれだけ辛いだろうかと思う。
姉の精神力はおいらの150倍タフだけれど
今回はきついと思う。


でも。
こうして衝撃を受けたり、動揺したり、泣いたりする人が
病院にいてくれるのって、おいらは救いだと思う。

姉が、感情を切り離し
患者に思い入れを持たず、クールに割り切ることができれば
本人は楽になれる。
でも患者は、あるいは患者の家族はどうだろう。

姉が神経をすり減らすことで
彼らが救われることはあるんじゃないだろうか。
泣いたのは良くなかったかもしれないけれど
姉の涙が伝えたこともあるんじゃないだろうか。


鎮静剤さえ打たなければ
あと半年、生きられたのに。
と姉は何度も書いている。
けれど、そういうことじゃないって、本人もわかってる。
ただ、姉にできるのは、それだけだったから。
それをしてあげたかったのだと、おいらには分かる。


おいらは姉を誇りに思う。
姉は、本当に、すばらしい人なのだ。


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おいらも、姉に誇られる人間になろう。いつか。うん、まあ、そのうちね。
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そっかぁ
あいざぁさんの家族って人間的で素晴らしい人が多いんですね
この業界は人の死に対して鈍感な人が多いですよね
割り切っていると言うか。
人って共感してくれる人がいると慰められるんですよね・・・
私の想像ですが、そんな素晴らしいお姉さんは、患者さんやその家族の前では動揺を見せなかったと思いますよ。 動揺すると適切な態度を取れなくなるから。
只々その人たちの心に寄り添ってあげたんだと思いますよ
死ぬときって体に血が回らなくなるから、痺れたみたいに何も感じなくなるんだろうって思ってましたよ。
だったら死を恐れなくてもいいなーって思ってたんだけど。 どうもお姉さんによると違うみたいですね
かおりん 2008/06/27(Fri)17:10:48 編集
最期は。
姉を褒めてくれてありがとうございます。身内びいきなのは分かってるんですけど。おいらも姉のように誰かを助けられる人間になれていたらな、って時々思います。
姉が看取る死はいつも壮絶ですが、それは病院だからではないでしょうか。かおりんさんの言うとおり、何も感じなくなって死ねる人もいるような気がします。おいらもそっちを希望します。
【2008/06/28 00:21】
無題
実は知人が癌と戦っています。
会う時は元気な様子で普段と変わらず接してくれて
いますが、本当はすごく大変なんだと思います。
抗がん剤・・・そんなに副作用がきつい薬なんですね。
一生分の投与量まで決まっているなんて、知りませんでした。
お姉さんは素晴らしい人、あいざぁさんの文章を読んで
私もそう思いました。
患者さんの気持ちをきちんとわかろうとして
最大限の努力をされる方。
命が目の前で尽きる・・・尋常な神経ではいられません。
私も母を幼い頃に亡くしているので・・。
お姉さんが傍で支えていらっしゃったことで、
患者さんもその御家族もどんなにか心強かったことと思います。
ご自分の身をも削る大変なお仕事だと思いますが
お姉さんが今の強さを保てるよう
これからも仲の良い素敵なご姉妹でいてください☆
グリュン URL 2008/06/28(Sat)00:20:03 編集
グリュンさん、そうだったんだ…
ブログにこの話を書く時、実際に身内の人で癌と戦っている人が読んだら、あまりにも辛すぎるんではないかと、躊躇しました。それでも、平和な毎日を生きている人間が、平和を幸せだと、平和を大切にしようと気付かせてくれる、大切な話でもあると思い、書いたのです。そして、彼が今生きていることを、どうしても伝えたくて。グリュンさんの心に波風がたっていなければいいのですが。

今でこそ仲良しですけどね。昔はそりゃーケンカしましたよ。おいら、優等生の姉のこと、ほんと嫌いでしたもん。それがまあ、なんとも大人になったもんです。
【2008/06/28 02:20】
素敵なお姉さんですね
こんにちは。幸いな事に私は、結構いい年なのに身近な人の死に直面した事がありません。
ただ、OL時代の先輩が癌でお母様を亡くされた時、「安楽死に反対する人たちは、大切な人が本当に苦しむ姿を見たことがないんだろう。」と、おっしゃっていました。苦痛を訴え続けるお母様に何もしてあげられず、また周りのクールな対処もさぞかし辛かったのだろうと泣けてきて、身内にそんな事が起こったら、私は何が出来るのかを考えたりするようになりました。お姉さんが患者さんに親身でいた事はきっとご家族に伝わっているでしょう。ずいぶん救われたと思います。素敵なお姉さんですね。
大切な人がいて、でもみんな不死身じゃないから、生きてる時も死んじゃうときも丁寧に向き合っていたいですね。
永久反抗期の私にはなかなか難しいですが・・
akko 2008/06/28(Sat)01:32:33 編集
丁寧に、むきあう。
返事が遅くなってすみません。
安楽死をどうこういう気はないんだけど、痛みや苦しみから救ってあげられないのは、周りは本当に辛いし、そればかり思い出してしまいますよね。生きている時、特に元気な時に、丁寧にむきあうって難しいですよね。自分自身に対してさえ、そうです。akkoさん、永久反抗期なんですか?反抗期は反抗期で、丁寧にむきあうことはできると思いますよ。
【2008/06/30 15:15】
きついですね...
自分の友人(すねかじり)も実は医療従事者です.患者が痛がるのをみるのが苦痛で,それを少しでも解消したかった(そういう部署に移った),とよく言ってました.彼女の担当は末期ガンに関するところではなかった(はず)ので,まだましだったと思います.本当にこれは想像するだけでつらいです.今の法律では非常に難しいところですね.すくいたいが,何もできない.
患者およびそのご家族と共に感情を分かち合える医療従事者の存在は心強いと思います.
ぶにょ 2008/06/28(Sat)04:44:43 編集
きついっす
返事が遅くなってしまいました。ぶにょさんの身近にも医療に関わる人がいらっしゃるんですね。やはり、誰かが痛がるのを見るのは、厳しいと思います。自分が変わってあげられるわけでもないしね。
姉がよく言うのは「私より若い人たちが、どんどん患者への共感能力を失っている。もしくは、最初から持っていない」ということです。痛いことや辛いことに毎回共感してたらからだが持たないけど、やっぱり、そういう人たちでないと、患者を支えることはできないんじゃないかな、っておいらは思っちゃいます。
【2008/06/30 15:25】
無題
その患者さんはきっと
愛する家族のために
生きることを選び、必死で癌と闘い
そして また 
愛する家族のために
死ぬことを決意したのかもしれませんね

癌と闘って苦しんでいる姿を見て
また苦しんでいる家族を見ることが
彼にとって耐えられなかったのかもしれません

そんな患者さんとその家族を精一杯見守り
できること全てを心からなさっているお姉さま
素敵な方ですね☆

きっと正解とか不正解なんて
この世界にはないけれど
みんなが心からお互いを思いやって
出した答えは どんな答えであっても
正しいんだと思います☆

患者様とご家族にとって
素敵な予後が過ごせますように…お祈りしています
happyaki URL 2008/06/28(Sat)06:30:48 編集
そうですね…
正解とか不正解、ってないとおいらも思います。
これはおいらの想像ですが、水も飲めないほどの苦しみ、眠ることもできない痛みというのが、24時間365日続いたら、どんな人間だって発狂すると思います。そこから逃れることだけを願うのも不思議じゃないです。だからといって安楽死を制度化するべきだとも、なかなか簡単には思えません。だって誰かに死を与えることって、周りの人にはとっても辛いことだと思うからです。むずかしー。
【2008/06/30 15:29】
う~ん
昨日、読んだのですけど思うところあってすぐにコメント書けなかったです。
「闘病」でね、頑張ってる人の話聞くと複雑です。
もう亡くなりましたが、周りの人への気遣いなど一切なく感情をぶつけるままの人がいまして。
もちろん病気は辛いんだと思う。
本人じゃないから本当の辛さはわからない。でも、それでもこの人もう少しどうにかならないのかって思った自分は冷たいのか。
その当時のことを思い出して、ややブルー入りましたよ。

そして、自分のへなちょこな弟を思い、もう一段沈みました・・・。
nini 2008/06/30(Mon)17:39:25 編集
現実は残酷
なるほどね~。こまったちゃん、いますもんね。現実っていっつもきれいじゃないし、困ること多いです。どちらかというと、いつもの姉の愚痴は、そういうこまったちゃんのネタが多いです。姉はよく「生きてきたように死んでいく」といいますね。多くの人に惜しまれ看取られる人もいれば、孤独に亡くなる人もいて。難しいもんです。
【2008/07/01 00:39】
無題
もうだいぶ前ですけど、うちの父も癌で亡くなりました。
父の入院してた病院の医者である伯父(父の兄弟)は、「もうダメだね」という判断の元、父の亡くなる2日前までハワイ旅行。
そういう判断がされていたことを知らなかった私は、後から聞いて耳を疑いました。だって、自分の兄弟でしょ、慣れるにしてもホドがあるのでわ? と。。
そんな中父が亡くなった時、ずっとお世話してくれてた看護婦さん達が「本当はこんなこと言っちゃいけないんだけど、お父さんとっても楽しい人で、私たちも残念でたまらない」と涙ぐみながら言ってくださった事にものすごーく救われました。
きっと入院中は迷惑かけたこともあったでしょうけど、こうやって患者さんのこときちんと見て考えてくれる人が医療関係者が居ることは、患者さんにとってもその家族にとってもものすごくありがたいことだと思います。
あいざぁさんのお姉さんも、本当に大変なお仕事だとは思うけど、いつまでも燃え尽きずにがんばっていただきたいです。
さばぇ URL 2008/07/02(Wed)00:22:58 編集
えぇっ??
さばぇさん、おひさしぶりです。
しかし、なんですかそれは。ちょっと、酷すぎませんか。もしかしたら10年休みがなくて、ようやく取れた休暇で、家族が楽しみにしていて、反抗期の息子がやっと笑顔をみせてくれて、グレた娘が歩み寄りをみせたという、もんのすごく大切な家族旅行だとしても、それでもおいら、許せない。自分の兄弟でしょ?最後だからこそ、一緒にいたいじゃん!ムキーッ!
だいたいね、世の中、無能な人の周りに優秀な人が集まるんですよ。友達の職場の話とか聞いてても、そうだもん。ほんで、無能な人の方が給料高かったりするんだから、おかしいよね。
【2008/07/02 00:33】
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プロフィール
HN:
あいざぁ
性別:
女性
自己紹介:
ドイツ在住、細々とライター業。
海外転勤につられて、まんまと策略婚。
夫との育ちのギャップに窒息寸前。


夫:マンジロウ。日本人だがアメリカ人的思考。
息子:ゴウ。幼児。

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