マンジロウは音楽が好きで、ダンボール箱ふたつ分のCDを持ってきた。
多すぎ。
最近、ラックの入れ替えが行われて、目新しいジャケットを見かける。
で、ドキリとした。
BASIAのCDがあったのだ。
おいらが初めて付き合った男の子に贈ったCD。
マンジロウが昨日BASIAをかけたので、初恋のせつない日々を思い出した。
彼とは高校が一緒で、二年の片思いの末、付き合うことができた。
おいらは彼が本当に好きだった。
高校の授業で、部落差別についての講習があった。
(意味が分からない人は、調べずにそのままのほうがいいです)
おいらの住んでいる近くにもそういう地区があるので、
おいらは彼に聞いた。
「もし私がそうだったら、どうする?」
聞きながら、「気にしない」って言ってくれるだろうと思ってた。
でも彼の答えは違った。
「そんなことを気にしてたら、恋なんてできない」
おいらはこの答えがとても気に入った。
自分が想像してた返答よりも、ずっとずっと人間味と現実味がある。
自分がこんなに素敵な人を好きになったことを、誇りに思った。
彼のことが好きで、本当に大好きで、
別れを切り出された後は、泣いたし、恨んだし、大変だったけど、
やっぱり素敵な人に恋をしたんだ、と改めて思った。
その話を誰かにしたくて、マンジロウに聞いてみた。
「マンジロウ、おいらの昔の恋の話、ききたい?」
マンジロウはきょとん、として
「そうか、今日はそんな話がしたいのか。いいよ、どうぞ」
と言った。
それで、この彼の素敵な返答の話をした。
そしてふと、気付いた。
「ねえ、マンジロウ父はそういうの、気にするんじゃない?」
「うん」
「聞かれた?」
「いいや。俺に何も言わず、調べてると思うよ。
親父はそういうの、すごく詳しいから」
なんか、すごいショックだった。
マンジロウ父に初めてあった時
(詳しくはあいざぁを知るカテゴリーの「なれそめ」をどうぞ)
「日本人だったら構わない」って言ってたけど、
もしかしてあの時点で調べ終わっていたんだろうか?
おいらマンジロウに実家の住所って言ったっけ?
それとも名前だけで調べる方法があるんだろうか?
頭の中でグルグルといろんな問いが巡った。
知っていたのかもしれない、
おいらが日本人だということも、知っていたのかもしれない。
マンジロウに、
「もしおいらがそうだったら、結婚した?」
って聞きたくなった。
でも聞けなかった。
おいらたちは、恋をして結婚したわけじゃない。
全ての条件が折り合ったから結婚しただけだ。
もしマンジロウ父が反対すれば、進まなかった結婚だ。
だからこの問いかけには意味がない。
おいらがじっと黙ってしまったので、
マンジロウが言った。
「もう、そういうことは、親父の代で終りにすればいいよ」
ああ。
そうだね。
本当にそうだね、って思った。
そして、とても素敵な返答だと思った。
悲しいんだか、せつないんだか、わからないまま泣きそうになった。
おいらは、どんなハンディを背負っていても、
それでも愛してくれる人が欲しかった。
だから高校時代、彼にそんな質問をしたのだ。
ばかな小娘だったおいら。
それは今も変わってない。
ただ、ほんの少し、おとなになったような気はする。
負い目がなくても調べられるというのは不愉快なもんだ。
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