結婚してすぐ、マンジロウはこう言った。
「俺の方が、写真うまいね」
鼻の穴を膨らましてた。
おいらは別にカメラは得意じゃないが
ライターという職業柄、ある程度は撮れる。
というか、最低レベルはクリアしている。
仕事で必要なレベルは。
だから、下手というふうには思っていない。
でも、
せっかく本人が調子のってるのだから、
水をさすのも悪いと思い、ふむふむと聞いていた。
そのマンジロウの写真。
建物の前で写したら、中途半端に屋根が切れる。
遺跡のインフォメーションの前で写したら、一番大切な名前が切れる。
ゴウと一緒に写したら、おいらの顔が半分切れる。
なにやっとんねん(怒)
写真が下手なのはいいんだけど、
それでうまいって言うのがむかつく。
なんて残念な男なんだ。
でも、面倒くさいので放っておいた。
それでもマンジロウの写真はおいらが写しているから、
まともに撮れているけど、
おいらはどれもこれも残念構図で、なんて悲しいことか。
パートナーってちゃんと選ばなくちゃだめなのね。
おいらの写真もおいらが撮りたいわ。
毎回「この看板のこの文字を入れてね」とか
「あそこの橋の横においらが入るように撮ってね」とか
ご機嫌を損なわないように丁寧に指示するのが大変。
けど、一度も
「写真めっちゃ下手やん、どないしたんこれ、
なんでこんなことになるんよ。
考えて撮ってる? いや考えてないよね。見てる?見てないね?
なんでこの場所で撮るんか、わかってんの?
意味考えて。ちゃんと考えてよ。あほちゃう」
とは言ったことがなかった。
前回の旅行の写真をハンナ夫婦に見せた。
ハンナ夫の一言。
「あいざぁの方が写真上手なんだね」
まったく悪気のないにこやかな一言。おみごと。
マンジロウ、どんな顔をしてるかと思ったら、
聞こえなかった顔(フリ)をしていた。
ハンナが声に出さず笑っていたのが、おいらは面白かった。
小さなムカつきが大きな亀裂へ育ってゆくでしょう。
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