マンジロウは英語がかなり話せる。
TOEICは初挑戦&勉強ナシでほぼ満点だった。
でも満点じゃなかったから恥ずかしくて内緒にしている、というカッコツケ。
そんな彼はドイツ語は話せない。
ドイツ語が必要な場面、例えばレストランのオーダー時とか
家電製品の売り子さんとのやりとりとか
市場で突然おばあちゃんに話しかけられた時なんかは
おいらがすべて対応してきた。
マンジロウは、語学センスには自信がある。
ただ、おいらの方がドイツ語は先手をいっているので、
おいらに教えを請うような展開がプライド的にNGだった。
めんどくさいおとこだなー
ところがドイツの暮らしも長くなり
ちょっとはドイツ語を勉強する気になったらしい。
彼はある日こう言った。
「あいざぁ、俺、ロゼッタストーンを買うよ」
そんな遺跡を買われても困る。
と思ったら。ご存知でした? 語学教材なんですよ。
「ロゼッタストーンはすごいんだよ。非常に構成がいいんだ」
と延々話してくるマンジロウ。
語学教材なんて、どれも同じ、とおいらは思ってるので
聞き流していたが、マンジロウは本気だった。
語学教材ってどれも高いんだよね。
これもそこそこ高かった。
マンジロウはいつも買い物をおいらに相談したりしないので
今回は相談しただけでもマシっちゃーマシだったが。
でも反対したって、聞きやしないんだよ。
「ロゼッタストーンにはね、
あいざぁが好きそうな制度があるんだよ。
半年以内なら、返品可能なんだ!
全額返金されるんだよ。
あいざぁ、こういうの好きでしょ?
ね、やってみてもいいかなって思うでしょ?」
「ああ、それはいいね。
半年がんばってマスターしたら、ただで会得できるわけね。
でも、マンジロウはそういう制度、好きじゃないでしょ」
「うん、好きじゃないというより、利用しない」
「利用しないの?」
「うん、利用しない」
「つまり、半年で会得しても、あるいは半年で勉強しなくなっても
せっかくそういう制度があるのに、返品しないの?」
「うん、返品しない」
……、じゃあなんで、そこをおすすめポイントみたいに話したの?
このひと頭だいじょうぶ?
「でもその制度があるから、買って損はない、と言うのね?」
「そう、買って失敗はない」
「だけど、その制度は利用しない」
「利用しない」
このひと、本当にだいじょうぶ?
ちゃんと仕事できてるんだろうか?
「その制度を、その状況で利用しないんだったら買わないでよ」
と確かにおいらは言ったのだが
勝手にマンジロウは購入。
これが、忘れもしない半年前。
ある日おいらは、はっと気づいた。
「マンジロウ!
ロゼッタストーン、半年経つ前に返品しなよ!」
マンジロウは、届いた当初はうれしそうに発音チェックとかしてたけど
一ヶ月もしないうちに触りもしなくなった。
語学教材なんてそんなもんでしょ。
だいたい、勉強より仕事ばっかりで時間なんかないじゃん。
「おー、あいざぁ、よく覚えてたね。
でも
もう半年過ぎてるよ」
なんですとー!
おいら… もっとちゃんとチェックしておくんだったっ
くやしい…
くやしいよ!
マンジロウがくやしがってないのが、これまたくやしい!
返品システムを活用する気がないなんて、
おいらやっぱりマンジロウがわかんない。
けど、ロゼッタストーン購入宣言について
支離滅裂で破綻してると思ってたけど、
結局やりたいようにやっちゃったマンジロウ、
話術がタクミってことなんだろうか……。
いや、それを話術といっちゃおしまいよ
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