ゴウは4歳。多分ゴウの人生で最もサンタを愛している時期だ。
サンタは望むものなんでもくれる。
ヒーローみたいな存在。
ゴウはなかなかサンタにお願いするおもちゃを決められなかった。
ハイパーレスキューがいいな、トーマスがいいな、カーズがいいな。
どれかひとつ、とおいらが言ったから、悩みは更に深まった。
最終的にゴウが決めたのは、カーズいっぱい、だった。
カーズというのは顔のついた車のディズニー映画で、
そのミニカーがいっぱい欲しいという。
金かかるな。チッ。
しかしゴウは健気なまでに、
サンタにゴマをすりつづけた。
おいらが友人に配るクリスマスカードに丁寧に絵を描いたし
お風呂で髪も洗ったし
近所の年下の子にも大変優しかった。
だからおいらはカーズの車9台と
それを収納する大きなトラックを買った。
マンジロウにもそれを伝えた。
これだけで大概ムカつく金が飛んで行ったが
ゴウの喜ぶ顔が見たい典型的なダメ親は満足だったのだ。
マンジロウはクリスマス前から出張が続き
あまり会話ができていない状態だった。
けれどサンタプレゼントはおいらが用意しているので
特に心配はしていなかった。
サンタがやってくる正しい日にちはいつなのか知らないが
24日の夜にセットして25日の朝にゴウが見つけるようにしよう、
おいらはそう決めていた。
マンジロウは23日の夜、
夜中1時くらいに帰ってきた。
出張戻りでそのまま出社し
たまっていた仕事を片付けて遅かったらしい。
いつ帰ってくるという連絡もないので
おいらはとっくに眠っていた。
24日の朝、ゴウのまくらもとに大きな包みがあった。
ゴウの目がキラキラと輝く。
「これは? ゴウにくれたの?」
寝起きで頭が動いてないおいらは曖昧に頷いた。
おいらが用意したサンタおもちゃとは形が違う。
いやな予感がした。
ゴウの嬌声を聞きつけてマンジロウもやってくる。
にやにやしながら
「サンタさんが来たんだ、ゴウはいい子だから!」
と、のたまう。
いやな予感がピーク。
ゴウは喜び勇んで包みを開けた。
興奮がおさまらず、ビリビリとちぎられていく包装紙。
そこからでてきたのは……
消防車のレゴ。
この瞬間おいらの頭の血管が数本プチっといった。
レゴの消防車、持ってるし。
しかもこれ、高いやつだよね、40ユーロするやつだよね。
消防車本体じゃなくってつまんねー建物のせいで高いやつだよね。
しかしこの時本当にやばかったのはおいらではなく、ゴウだった。
プレゼントをもらったら、いつも大喜びするゴウが
突然フリーズ。
そしておそるおそる、開口一番こう言った。
「これ、ゴウのプレゼント?」
母は胸が痛かった!
ゴウはサンタさんがプレゼントを間違えたか
このレゴは母か父宛のもので
自分へのカーズのプレゼントは別にあるのではないか、
そんな期待を胸にそうきいたのだ。
なんと言おう、とまどいながらおいらが口をひらくより早く
まったく空気が読めない男は言った。
「そうだよ、ゴウへのプレゼントだよ!」
最後の望みを絶たれ、
虚ろな目でふらふらと立ち上がるゴウ。
レゴには見向きもせず、
涙目になってる。
おいらにはわかる。
ゴウはこう考えてる。
いい子じゃなかったから
僕は欲しいものがもらえなかった。
僕はいい子じゃないんだ。
だからカーズがもらえないんだ。
あんなに何回も、街でサンタさんの人形を見つけるたび
声に出してお願いしたのに
サンタさんは僕にプレゼントをくれなかった。
ただならぬゴウの様子に驚くマンジロウ。
「どうしたんだゴウ?」
どーしたはてめーだ!
なんでちゃんと説明したのに勝手におもちゃ買ってきて
おいらに一言もなく贈っちゃうんだよ!
「頼んでたのと違うから、びっくりしちゃったかな?」
とおいらが言うと、ゴウは悲しそうに頷いた。
今にも泣き出しそうだ。
自分のしでかしたことに気づいたマンジロウは
あわてふためき、
しまいにはこう言った。
「実は! これはサンタさんじゃなくってお父さんからでした!」
ほんまになあ。
なんでもありやな自分。
4才いくらいまでやで、そんなんでごまかせんの。
翌日無事カーズをもらってゴウは嬉しそうでした。
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