少し前に日本で、あかちゃんがらみの恐ろしい事件があった。
スーパーかなんかで、
女の人が「だっこさせてください」とやってきて
あかちゃんの足をこっそり折った、というやつだ。
子育て中の母親でなくても、心底ぞっとする話だ。
この事件について、ふと、マンジロウが言った。
「そういえば、あいざぁは絶対知らない人に抱っこさせなかったね」
まさかこんな事件が起こるなんて思ってもみなかったが、
確かに、おいらはゴウを知らない人に預けたことが一度もない。
日本にいた時、ゴウと外出すると時々話しかけられた。
だっこさせてください、とはっきり言われると断りにくいが
大抵は「おばちゃんがだっこしてあげようか?」と
ゴウに話しかけるものだったので、
「さっきおっぱい飲んだところなんで、
吐いてしまうかもしれないので」
とやんわり断っていた。
いろんな人にだっこしてもらうのは、
ゴウにとってもいいような気はしていたのだけれどね。
なんで断っていたのかというと、
本当にゴウはよく吐く子だったのが一番の理由。
うんちもよくもれたし、
通りすがりの人の衣服を汚してはいけないと思った。
しかしそれだけでなく、
なんというかなあ、
「この子をだっこできるなら、うんちがついたってかまわない」
くらいの気持ちの人にしかだっこしてほしくなかった。
なんだろうね、あれは。
初めて子供を生んで、猫のように気が立っていたのだろうか。
まだ入院中の時は、助産師見習いさんにだっこされるのさえ
苦痛だったのだから、普通ではなかったな。
ところでドイツでは、話しかけられる率は日本の比ではない。
特にアジア系のあかちゃんは珍しいのだろう、
毎日毎日必ずと言っていいほど、
「んまあ、かわいい!」とおばあちゃんが寄ってくる。
そして話しかけながら、ゴウの手の甲を指でそっとなでる。
これがびっくりするくらい、必ずそうなのだ。
ゴウの顔に触れたり、
だっこしだがったり、絶対にしない。
夏の間はゴウの素足もよく触られたが、
頭を触る人はいない。
近所のおじいちゃんは、ゴウの額に十字架をかいて祈ってくれる。
これははなはだ迷惑。
だけどまあいいか、といつも受け入れてしまう。
この一年で、おいらははっきりと知った。
日本人はだっこしたがる。
ドイツ人は、だっこしない。
ちなみに、知り合いのドイツ人はだっこしたがる。
つまりこれは、知らないあかちゃんに対する確実な一線なのだ。
どうしてなんだろう。
スキンシップの歴史はドイツのほうが圧倒的に長いはずだ。
おいらだって、軽い知り合いとはチュッチュの挨拶もする、
つーかさせられてる。
でもあかちゃんに対しては、この一線。
どれだけメロメロにとけそうな笑顔でも、
決して踏み越えない。
個人責任が徹底してるからだろうか?
「悪意はなかった」といういい訳は通じない国だから?
いずれにせよ、おいらにとっては、
ドイツの習慣の方が好ましい。
イタリア人はこれまたすごいベビーLoveな民族らしいね。