姉が嫁にいく時、
(彼女にとっては嫁入りではなく「結婚」であるわけだが)
おいらはひとつの使命感にかられた。
姉に、料理を教えなければならないのではないか?
姉がまったく料理をしないのには、
きっといくつか理由があると思う。
そのうちのひとつは、どうも、おいらに原因がある気がしてならない。
お互い小学生だった時、
NHKで「ひとりでできるもん」という料理番組があった。
10歳くらいのぶさいくな女の子が
人形と掛け合いながら、料理を作っていくというものだ。
料理はいつも簡単で、しかも美味しそう。
ある日、姉はそこで紹介してあったクレープを作った。
当然、家族に振舞われる。
それがね…
何に似てるか、というならば、
ゴムである。
輪ゴムとかゴムパッキンとかの
ゴムである。
砂糖をまぶそうが、チョコレートを包もうが、
ゴムはどこまでいっても
ゴム。
食感もさることながら、味がゴムなんだから、
もうどうしようもない。
一口で、家族全員リタイアした。
おいらは、あの材料とあの作り方で、
どうしてこんなゴムが出来上がるのか、
不思議で仕方がなかった。
決して「おいらならもっと巧くできる」というような
傲慢な気持ちではなかったのだが
好奇心で自分でも作ってみた。
これがまあ、あなた、
おいしいクレープじゃありませんか。
この時の姉の衝撃は、想像に難くない。
なんせ、姉の新しいキャラクターが定着した瞬間である。
今までは「頭が良い」の一辺倒だった彼女。
この瞬間に「料理が
ヘタ。しかも
ドヘタ」になってしまった。
その後、姉は料理を「不利なジャンル」とみなし、
例えばクイズ番組で頑なに政治ジャンルを避けるように
料理エリアを回避し続けた。
その結果が、「スパゲッティ茹でるのにどうして塩を入れるの?」である。
彼女に料理を仕込めるのは
おそらくおいらしかいない。
母は理論的に料理をするタイプではない。勘が全てだ。
そういう料理は、今更姉にはできない。
でも、おいらも70%は勘…。
勘の何が悪いかというと。
例えば、「目もりつきのナベを買って、
一リットルに対し何グラムの塩を入れてスパゲッティを茹でる」
という説明ができていれば、
姉も困らないのだが。
「これぐらい入れて」というと
まず、姉は混乱する。
その結果、どうなるかというと…
***************************
:妹のレポート:
お姉ちゃんが久々にやっちゃったよ!
今回はとつぜん、スパゲッティを作ったんだって!
お義兄さんはやっぱり今回も止められなかったみたい。残念。
今回はなんと、スパゲッティを塩茹でしたらしいわ。
お義兄さん、パスタソースはきっちり見張ってたんだけど
まさかお湯に大量の塩が入ってるとは思わず
普通に味付けしたら
もんのすごい塩辛かったって!
それでも黙って食べたんだってよ。
偉いよねえ、あのひと。
ちなみにおねえちゃんは、
「塩辛い」って食べなかったんだってさ。
************************
と、こういうことになります。
おいら以上に食いしん坊の義兄。
カワイソウで涙がちょちょ切れます。
風邪でダウンした時に、こんな料理食べさせられる義兄に愛のクリックを!
PR