おばあちゃんから手紙が来た。
しっかりとしたアルファベットで宛名が書かれている。
おいらの祖父母は4人コンプリート。
誰の祖父母もそうだろうけど、かなり個性的。
今日書く、ハルおばあちゃんは、その中でも特質。
おいらの祖父母はいわずもがな、庶民。
じいちゃんズは農家の次男と三男。
戦後、一人は商売を始め、一人はエンジニアになる。
この物語もすごいので、またいずれ。
キクおばあちゃんは、生い立ちは普通だが、かなり個性的。
この物語も、いずれ。
今日はハルおばあちゃんのこと。
ハルおばあちゃんは、このメンバーの中で、唯一育ちが違う。
当時大学を出た父を持ち
グランドピアノのある家庭で育った、超お嬢様である。
終戦、父親の仕事の関係で満州にいた。
戦後、政府関連会社の幹部だった父親は没落。
混乱の満州からなんとか引き上げた。
人生の大部分を突然失った父親は失意でおかしくなったらしい。
そこで活躍したのは、子供たちだ。
ハルばあちゃんの弟は
なぜか
ロシア語をマスター。
ソビエト人相手に通訳をして収入を得た。
( ̄д ̄) エーいろいろおっしゃりたいでしょうが、本当です。
このおっちゃん、多分、脳の回路がおかしい。
一週間で言語がある程度マスターできる。
もう80こえてるけど、6ヶ国語以上喋れる。
ヨーロッパ言語が何種類も話せるのは、まああり得るけれど
言語体系が違うものまで体得できる。
おいらも、ちょっとおかしいと思う。
ハルばあちゃんは、そこまで言語能力はないんだけど
中国語はマスター。
実は満州で生活している間は、中国語を使っちゃいけなかった。
だから、終戦のドサクサで一気に習得。
家系的に、言語能力が発達している模様。
ハルおばあちゃんの孫は何人もいるけど、
どうも、おいらが一番彼女の言語能力を継いでる。
ハルおばあちゃんの教える中国語を理解したのはおいらだけだから。
それこそ4歳から、ものの名前を、日本語と同時に中国語でも覚えたがった。
自分でも、「これ中国語ではなんていうの?」って言ってた記憶がある。
もちろん、彼女ほどの能力はない。
おいらの言語って、ほんとテキトー。
残念ながら、ハルおばあちゃんの中国語は日本語訛りで、
おいらはネイティブの中国語を知らずに育ち、
ヒアリング能力は皆無。
だから自分の意見を言うことしかできない。
うーむ、役に立たぬ。
ハルおばあちゃんの弟は、戦後英語とドイツ語をマスター。
ドイツの企業に就職し、なんとドイツに駐在までしていた。
マンジロウの先輩である。(会社は違うけど。ドイツ系でもないし)
おいらがドイツに行くって言ったときも
ハルおばあちゃんは反対しなかった。
自分の母親も夫について満州へ行ったし、
弟も海外で暮していたから、違和感がなかったのだ。
その分、キクおばあちゃんの反対はすごかった。
理由は「キクおばあちゃんの死に目に会えないから」…。
日本にいたって会えないかもよ?
だってあの子のことだもん。
のあいざぁ母の一言で解決。
超お嬢様のハルおばあちゃんが、生き残るために庶民と結婚。
自分も商売を手伝うことになる。
息子たちも、荒っぽい男に育ち、
なんだかなー、と思ってたんじゃないだろうか。
はっきりいって、ハルおばあちゃんの育ちの良さは際立っている。
気品が違う。
家族写真をとっても、彼女だけ女優のような風格だ。
なにせじいちゃんとの結婚式は、
村中の人が息を飲む美しさに圧倒されて
なんとも盛り上がらない宴会になってしまったそうだから。
ハルおばあちゃんはよく働いたし、頭もいいから役に立った。
しかしお嬢様ゆえ、天然である。
周囲からはそれを揶揄される。
孤独を感じることもあったろう。
そこにおいらの出現。
まったく同じ天然系。
のんびりおっとり(子供の頃はね)、好奇心は旺盛。
ハルおばあちゃんは溺愛し、おいらにかかりきりだった。
今も、ハルおばあちゃんから手紙が届く。
祖父母ズの中でアルファベットをかけるのはハルおばあちゃんだけ。
彼女は英語も少しなら分かる。おそるべし。
手紙には、新聞の切抜きがいっぱい入ってる。
マンジロウの会社の情報だ。
「いい話ばかりでうれしい」と書いてあった。
そうして毎日気にかけてくれていることが、おいらはうれしい。
今回はそれに加え、古い雑誌の切抜きが入っていた。
おいらが学生時代にバイトで初めて書いた、
フリーペーパーの記事だ。
資料を整理していて、見つけたのだという。
久方ぶりにであう、間違いだらけの恥ずかしい記事。
なんちゅう下手な文章だとへこむが、
やっぱりハルおばあちゃんの愛情に満たされた。
おいらにはもう、ハルおばあちゃんの能力も気品もなくなった。
(昔はなかなか品のある顔つきをしていたのだよ)
ハルおばあちゃんから受け継げるものは、何もない。
なにかを継いでみせたいと思うけど、きっとムリだ。
それは継ぐものじゃなくて、育てるものだから。
ハルおばあちゃんを喜ばせたくて、おいらもせっせと手紙を送る。
手紙は、ほんとうにいいもんだと思う。
ハルおばあちゃんのおもろネタも沢山あるんだけど。今日は敬意を表してあたりさわりないとこで。
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