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お育ちのいい夫にてこずる妻日記。エコだったり毒舌だったり。

2025-01

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おいらの姉は医療従事者だ。
「燃え尽き症候群」になりがちな職種でありながら、
常にポジティブで、患者に優しく、時に厳しく、
身内がいうのもなんだが、素晴らしい人だと思う。
(だから料理なんかできなくていいのだ)

ストレスの多い職業だから、姉は誰にもいえない愚痴を
おいらにぶつけることが多かった。
今は、それがメールでやってくる。

おいらに医療の知識はないし
守秘義務のある姉も全部は書かないから
中途半端な理解しか出来ていないが
今回の話は、おいらにもきつかった。


姉の担当する患者さんで、癌の人がいる。
認可されている抗癌剤が効かない、めずらしい種類。
実験段階の薬を投与することになった。

まだぎりぎり30代。子供も幼い。
彼は癌と戦う道を選んだ。

抗癌剤はおそろしくきつい薬だ。
一日の投与量から、一生の投与量まで厳しく決まっている。
でも、未認可であれば、その制限がない。
彼が根をあげるまで、投与され続けることになる。


1年、彼は頑張った。
入院しながら、会社にも行った。
吐こうが何をしようが、働き続けた。

治療が始まってすぐ、食べられなくなった。
一年が経過して、水さえも飲めなくなった。
はじめのうち、癌は少しも小さくならないが、大きくもならなかった。
これは抗癌剤が効いている証拠。
それが徐々に転移をはじめ、様々な臓器とリンパ節に転移した。
癌の痛みと、抗癌剤の苦しみ。
これは、現場を知らない人間には想像もできない壮絶さだ。


激しい痛みはずっと続く。
姉は言う。
「死ぬ時の痛みは、私たちが思うどんな痛みより激しい」
彼の肉体は死に向かっていて
眠ることも、何かを穏やかに感じることも、食べることも
きっと誰かを愛する気持ちさえ滲ませるほど
激しい痛みと常にあった。


とうとう、彼は言った。
「もう、死なせてください」


あと半年生きられる。
姉はそう確信していた。
彼の戦いも、痛みも、すぐそばで見ていたのだ。
けしてそんなことはしない人なのに
泣いて止めてしまったそうだ。


「このままじゃ、娘の記憶の中の父親は
いつも苦しんでいるだけになる。
眠るように静かに死にたい。
苦しんでいない父親の姿を見せたい」


姉は、この言葉には反論できなかった。


彼は家族や、友達、自分を助けてくれた全ての人に
お別れの挨拶をし、
娘と一晩一緒に眠って、病院にきた。


日本では、安楽死は認められていない。
彼が求めたのは、鎮静剤による安らかな眠り。
最後の瞬間まで、こうして眠り続ける。


それでも彼は若くて、癌以外の部分は生きようとする。
鎮静剤では押さえきれず、
痛みや呼吸苦で目が覚めてしまう。

一旦意識が落ちれば、そこに手を加えることは許されていない。
彼が目覚めるまで、手を出せないのだ。
彼の妻は、もう彼が苦しむのを見たくないと
死なせてやってくれと泣いた。

一年も彼の悲鳴を聞き続けたのだ。
そして彼が「もういやだ」と言ったのだ。
妻がそう言う気持ち、おいらには理解できる。

でも安楽死は違法だ。
「目が覚めたら、必ず」と姉が言っても
「目を覚まさせないで」と泣かれる。

今まで姉が担当してきた若い患者は
みんな、生きることが目標だった。
死にたくない、と
最後の瞬間まで戦っていた。
だから、死を望まれることに動揺している。


メールを読みながら、おいらは泣いてしまった。
逢ったこともない人なのに、
それでもこの苦しみを、ほんの少し想像しただけで
悲しくて辛くて、たまらなくなった。

姉はどれだけ辛いだろうかと思う。
姉の精神力はおいらの150倍タフだけれど
今回はきついと思う。


でも。
こうして衝撃を受けたり、動揺したり、泣いたりする人が
病院にいてくれるのって、おいらは救いだと思う。

姉が、感情を切り離し
患者に思い入れを持たず、クールに割り切ることができれば
本人は楽になれる。
でも患者は、あるいは患者の家族はどうだろう。

姉が神経をすり減らすことで
彼らが救われることはあるんじゃないだろうか。
泣いたのは良くなかったかもしれないけれど
姉の涙が伝えたこともあるんじゃないだろうか。


鎮静剤さえ打たなければ
あと半年、生きられたのに。
と姉は何度も書いている。
けれど、そういうことじゃないって、本人もわかってる。
ただ、姉にできるのは、それだけだったから。
それをしてあげたかったのだと、おいらには分かる。


おいらは姉を誇りに思う。
姉は、本当に、すばらしい人なのだ。


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おいらも、姉に誇られる人間になろう。いつか。うん、まあ、そのうちね。
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プロフィール
HN:
あいざぁ
性別:
女性
自己紹介:
ドイツ在住、細々とライター業。
海外転勤につられて、まんまと策略婚。
夫との育ちのギャップに窒息寸前。


夫:マンジロウ。日本人だがアメリカ人的思考。
息子:ゴウ。幼児。

☆☆★★☆☆☆☆☆☆

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著作権はあいざぁにありますので、勝手な引用は禁止です。勝手なリライトはおいら泣いちゃうのでやめてください。書き直して酷い文にされることほどツライことはないです。


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